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その水の安全も光学素材で

光学素材で世界的課題の解決に貢献するニコン

紫外線を通し、しかも自由にデザインできる「4Dフリーフォーム石英ガラス」。
浄水処理に利用される殺菌用UV-LEDなど、
幅広い分野での活用が期待されています。

深刻化しつつある世界の水危機

私たちの命に不可欠な「水」。しかし今、安全な水を利用できない人が世界で21億人(約10人に3人)にものぼり、そのうちの1億5900万人は河川や湖の水を未処理のまま飲んでいます※1

水を飲めるようにする浄水処理プロセスでは、殺菌消毒のため一般的に塩素を利用しています。しかし、この方法では、菌が薬物耐性を獲得してしまう恐れがあります。

そこで波長254nm近辺の紫外線(UV-C)が効果的な殺菌手段として有望視され、光源として紫外線発光ダイオード(UV-LED)が注目されています。その実用化に貢献するのが、ニコンが新たな製法でつくり出した光学素材「4Dフリーフォーム石英ガラス」です。

  • ※1出典…ユニセフ・WHO 共同監査プログラム報告書『衛生施設と飲料水の前進:2017年最新データと持続可能な開発目標(SDGs)基準』

ニコン独自の製法が生み出す新たな石英ガラス

UV-Cを透過する光学素材には石英ガラスやフッ化カルシウム(蛍石)などがあります。中でも石英ガラスは不純物がきわめて少なく、透過率に優れていることが特長です。不純物が少ないことから融点が高く、耐熱性や化学的耐久性に優れ、過酷な環境でも使用できます。このため、半導体露光装置やFPD露光装置などの光学系には欠かせない重要な光学素材です。

4Dフリーフォーム石英ガラスの最大の特長は、こうした石英ガラスの利点を生かしたまま、自由な形状を実現できることにあります。ニコンでは複雑な形状を一度でつくれる製法を開発。これにより、光学設計の自由度を飛躍的に高めました。ちなみに製品名の「4D」とは、3次元形状の「3D」にOptical Design(光学設計)の「D」をプラスしたものです。

これらの特長から、4Dフリーフォーム石英ガラスは、水や空気を殺菌するためのUV-LEDや⾃動⾞向けLEDなど、透過性と耐熱性の両⽴が必要な分野への展開が期待されています。

超高温の炉でガス化した原料を堆積させて石英ガラスの塊(インゴット)をつくっていく。インゴットの中心温度は約2000度にもなる。
完成したインゴット。半導体露光装置用の投影レンズ等は、これを削り出して製作する。

一貫体制から生まれるユニークな光学素材

きわめて硬いサファイアを微細加工し、精密部品も製作できる。写真は腕時計の歯車(直径3mm)。

ニコンは、創立の翌年(1918年)から光学ガラス製造の研究に着手し、現在も高品質な光学部品やFPDフォトマスク基板を、原料の溶融から加工までの一貫工程で製造。さらに、それら光学素材を搭載した各種精密機器を生産し、素材・加工・精密機器への応用を一貫して行う、世界でも稀な企業です。

ニコンでは石英ガラスの他にもさまざまな光学素材を製造しています。人工サファイア製品も、その一つ。サファイアはダイヤモンドの次に硬く、加工の難しい素材ですが、ニコンでは微細に加工する技術を開発。腕時計の歯車のような小さく精密な部品をつくることもできます。強度が必要とされるスマートフォンの保護ガラスや車外に露出する車載カメラレンズ、熱や薬品などで消毒する内視鏡先端部のカバーガラス、高温になるレーザー用光学部品などに適しています。

他にも、きわめて色収差の少ない光学系を実現することから半導体露光装置にも利用されている蛍石や、搬送用ローラーを保護するセラミックコーティングなど、多様な光学素材で最先端のものづくりを幅広く支えています。

画期的なソリューションを、素材から

ガラス事業室
小宮 知久

4Dフリーフォーム石英ガラスの開発には、化学はもちろん、光学や機械加工など、広範な分野の知識が必要でした。光学メーカーであるとともに精密機械メーカーでもあるニコンには、さまざまな分野の「プロ」がいます。そうした人たちの力を借りることで、非常に有用な光学素材が実用化できました。

今では自動車にも多くのカメラが搭載されるようになりました。映像を記録するデバイスは多様化し、その数も増え、求められる光学素材の特性も多岐にわたっています。世の中のニーズをいち早く捉え、適切なソリューションを最速で提供していきたいと考えています。

ガラス事業室
奥山 祐

人工サファイアは時間をかけて結晶をゆっくり育てる必要があり、温度管理が非常に大変でした。試行錯誤を繰り返し、成功した時のうれしさはひとしおでした。

苦労して生みだした光学素材が、レンズやプリズムとしてニコン製品に使われることはもちろん、社外のさまざまな光学製品にも利用されていることが私たちのやりがいです。

素材が装置の性能を劇的に向上させることは、よくあることです。私たちの光学素材で、次のイノベーションにつながるソリューションを生みだし、世界中の産業を盛り上げていきたいと考えています。