Designer’s Voice vol.1

2019.7.1 | コミュニケーションデザイナー

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グラフィックの枠を超えて強いブランドをつくりたい

コミュニケーションデザイナー、原 美帆。
ロゴやパッケージなど、ニコン製品に関わる数々のグラフィックデザインを手がけてきた彼女が、その活躍の場をどんどん広げています。

紙も、ただ紙として捉えない

デザインをする際に意識していることは?

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大学時代はグラフィックデザイン科に在籍していたものの、立体作品も積極的に制作していました。ただ単純に立体物が好きというわけではありません。グラフィックというアウトプットにとらわれず、より広い視点で対象を捉え、たとえばその素材などから別の見方を発見することに面白みを感じていました。

以前、公募のデザインアワードに参加して賞をいただいたことがあります。そのときに作ったのは、A4用紙に細かくミシン目を入れ、好きな形や大きさに切り取れるようにした文具でした。付箋にしたり、ちょっとした立体工作ができたりと、紙でできることを広げたアイデアです。紙をただの紙としてだけ捉えるのではなく、新しい角度から用途を広げようとしました。
このような「別の見方をする、広く見る」という考え方は、学生時代から今にかけて、普段から自然に意識していることです。

これまではどんなお仕事をしてきたのですか?

主に手掛けてきたものは、製品のパッケージ、展示会などのメイングラフィック、ポスター、リーフレット、その他にもノベルティや、グッズなどのデザインです。ほとんどの仕事が、カメラに関連したコンシューマー向けのものでした。
昨年発売されたフルサイズミラーレスカメラ Zシリーズのロゴもデザインしています。このときは「ニコンの伝統を継承しつつ、新しい時代の価値観を採り入れる」という命題に対し、これまでのDシリーズやFシリーズのロゴのエッセンスを取り入れながら、より現代的なデザインを作り上げました。
このようなカメラ関連アイテムを数多く手掛けてきた一方で、ここ数年は、業務の幅が広がってきています。

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デザイン思考で、社内の課題を解決する

業務の幅が広がってきたとはどういうことですか?

まず、一般的にイメージされる平面グラフィック以外のアウトプットが増えてきています。たとえば施設やデモルームなどの空間デザイン。それもただ表層的で装飾的なデザインを行うのではなく、事業や企画に基づいた空間コンセプトから考えることが求められてきます。そのためには、開発の早い段階から関わることで、質の高いアウトプットに結び付けていくことが可能になってきます。このようなデザインプロセスが増えてきていることも、最近の傾向といえます。

また、近頃は産業機器などのBtoBの仕事が増えています。BtoB事業においても、課題解決を導くデザイン思考に対する期待が年々高まり、社内におけるデザイン性へのニーズが高まってきていることが背景にあります。ただ、新たにデザイン思考やデザイン開発に取り組む事業部にとっては手探りのことが多いので、彼らをサポートするための協力関係を構築していくことも私たちの重要なミッションです。

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コミュニケーションデザイナーが関わることで、どのような効果があるのでしょうか?

これまで、各事業部の制作物は、それぞれが個々に制作していたためニコンの伝えたいメッセージにばらつきがありました。それを私たちが横断的に整えることで、あらゆるグラフィックを通じて、一貫した「ニコンらしさ」を届けることができると思っています。このようにグラフィックを通じてお客さまとのコミュニケーションをデザインすることで、一貫してニコンブランドを感じて頂けるよう後押ししたいです。

もうひとつ、より本質的な課題解決ができるということもあります。たとえば、「展示会用の資料を綺麗にデザインしてほしい」という依頼をもらったとします。しかし話を聞いていると、どうやら彼らの目的を果たすためには、その資料を作り直すだけでは足りないと分かってきます。そこで、もっと深く課題を整理するために、ワークショップを開き、彼らが伝えたいことは何なのか、本当の課題は何なのかなど、課題や目的を整理します。その結果、当初は資料のビジュアル上のデザイン変更を求められていたのが、「そのターゲット層であれば、動画などの形で表現する方が伝わるのでは?」など、依頼されたものより一段深い視点から提案することがあります。求められた制作物の色や形を調整するだけではなく、より本質的な解決策を導き出しているのです。
また、ワークショップを開くことで、関係者がみんな納得し合いながら進められるというメリットもあります。私たちの提案では「一緒に作っていく」ということを大事にしています。

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いまのデザインを知り、これからの糧とする

大学で講義をされていると聞きました。

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多摩美術大学の統合デザイン学科という比較的新しく出来た学科で、色彩や形態など、デザインの基礎の講義をしています。デザイン思考を理念に据えた学科で、プロダクトやUIも重んじているため、ご縁がありメーカーのインハウスデザイナーである私のもとへ話が来ました。教壇に立つたび新鮮な驚きがあり、「学生はこんな考え方をするのか」、「いま教育の現場ではこんなことを教えているのか」など、教えているはずの私が、たくさんの刺激を受けています。そのような発見を会社に持ち帰ることで、チームにも良い刺激を与えられるのではないかと思い引き受けました。

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今後、原さんたちコミュニケーションデザイナーが目指すことは何ですか?

これからは、もっとブランドが持つメッセージを研ぎ澄ませ、強いブランドイメージを伝えていかなければなりません。そのためには、ニコン全体におけるデザインへの感度が不可欠となるので、広くサポートしていきたいと思っています。
一方、私たちデザイナー自身は「たどりつくべきゴールを描き、それを具体化する」ことが重要なミッションだと思います。ミッションを達成するためにも、グラフィックという枠にとらわれず、コミュニケーションデザインの視点で社内外の課題に対して、より良い解決策を提供し続けていきます。