ECLIPSE Ei

2021.1.12教育用顕微鏡

初めて顕微鏡に触れる学生たちに、優しく、使いやすく、親しみやすく。“ECLIPSE Ei”は、学生たちに見ること、研究することの楽しさを感じてもらい、好奇心の扉を開いてほしいという想いから生まれた教育用顕微鏡です。

デザインセンターIDグループ
中島 充雄
デザインセンターIDグループ
小田島 俊子

難しかった顕微鏡

目に見えないものが見えたときの驚きや喜びこそ、新しい発見のための第一歩です。しかし、そのための道具、顕微鏡を使いこなすまでには、さまざまな壁が存在していました。

代表的なものは、接眼レンズ・対物レンズの取り付けや、ピント合わせ、絞りの調節など、いくつもの複雑な操作があり、使い方を覚えるのが難しいということ。
他に、一人の先生が大人数の生徒を相手に授業を行う教育現場では、“顕微鏡の使い方を教える”ために時間を割かれ、学習のための時間が削られるケースが少なくないというのも無視できない点です。
こうした、顕微鏡という製品そのものに起因する課題を解決し、未来の研究者の学びに貢献するにはどうすればいいのか。ニコンは、デザインの力で解決を試みました。

ゼロからの開発

「当初は、すでに開発がほぼ完了していた製品を少しだけ改良して投入する予定でした。その製品も、顕微鏡として合理的なデザインの基礎を満たしていましたので」
そう話すのは、ECLIPSE Eiのデザインのまとめ役を担った中島。
「ただ、2020年に世の中へ送り出すと考えたとき、この製品にはまだまだ改良の余地があると思いました。そこで、ゼロからデザインを考え直させてほしいと要望したのです」

顕微鏡にはさまざまな種類があり、機能も価格帯もさまざま。なかでもECLIPSE Eiは、学習や研究に使われる顕微鏡の“エントリーモデル”と言える製品です。学校に多数納入されることからもコストを無視することはできません。一度完成しているデザインをゼロから考え直すことは、異例の提案でした。
しかし、ECLIPSE Eiのデザインをメインで担当した小田島には、ひとつの想いがありました。

「私自身、学生の頃の顕微鏡実習を思い返すと、操作が難しく持ち運びや収納に苦労したという記憶があります。小中学校で使うものですらそうなのですから、研究用となればもっと難しいはず。せっかく新しいモデルを投入するのなら、とにかく“観察する”ということに集中できるデザインをつくりたいと思ったのです」

提案を受けたマーケティング部門と設計部門。規定のコストに収まること、部品の点数を守ること、開発期間を守ることを条件に、プロジェクトの再スタートを決めました。

課題抽出を、
さまざまな視点から

どうすれば、観察に集中できるデザインになるのだろう──?
新たなスタートを切った教育用顕微鏡のデザインプロジェクトは、課題の抽出から始まりました。デザイン部門だけではなく、さまざまな部門のメンバーが一堂に会し、“教育用顕微鏡”についてとことん話し合うことにしたのです。

ここで活きたのは、営業部門やマーケティング部門のメンバーの経験でした。
顕微鏡が使われる現場を数多く訪ねてきた彼らには、教育現場から上がる小さな声が大量に蓄積されていたのです。
たとえば、照明用のACアダプターのコードは収納するのが煩雑になり、扱いが雑になっていってしまうこと。高いところ、低いところから取り出すときに持ち手が少なく、体格によってはとても扱いづらいこと。複雑な操作が多く、先生が使い方を教えて回っているうちに授業が終わってしまうこと……。これまで顕微鏡の開発ではあまり顧みられることのなかった課題が、次々に明らかになっていきます。

それぞれの知恵を結集し、
デザインをカタチに

話し合いの中で明らかになった課題をもとに、デザイン検討に取り掛かります。しかし、完成までのタイムリミットは刻一刻と迫っていました。コストはかけられない。時間もない。デザインのプロセスが困難なものになることが予想される中、チームはひとつの決断を下しました。
通常は別の場所、別の工程で進められるデザインと設計を同時進行させることにしたのです。小田島が設計部門に常駐することで、設計者とリアルタイムにコミュニケーションを図りながらデザインの完成度を上げていくことを目指しました。

設計の現場へと赴いた小田島には、デザイナーとしての強い意志があったといいます。
「“難しい機械”という抵抗感をなくすためにも、全体のやさしいフォルムが重要。ここだけは絶対に譲れないポイントでした」

どんなデザインも、“実際のカタチ”になることで、初めて価値が生まれます。魅力的なスケッチを、どのように製品化するか。この重要な工程に携わった設計部門のメンバーも、知恵を絞りました。
使う金属は1グラムでも少ないほうが、コストの面では有利なものの、少ない金属で強度を出そうとすると、造形としての美しさが損なわれます。すべてがバランスよく保たれる点を探るため、何度も模型を作っては修正し、造形を磨き上げる。そんな作業を重ねていきました。

コストや、実際の生産に関する検討を行う技術部門のメンバーも、ここに加わります。部品の数や構造、塗装などを工夫して、デザインの実現に貢献。「この顕微鏡を世に出したい」という共通の想いが、プロジェクトを力強く前へと進めていったのです。

デザインがもたらす、
新しい体験

多くの人々の協力を得て、ようやく完成したECLIPSE Ei。親しみやすさ、扱いやすさ、教えやすさといった、カタチから生まれる価値によって、顕微鏡を使うという体験を新しいものへと変えました。

小田島が特にこだわったのが、外観全体から感じられる“やわらかさ”でした。
「白い骨格パーツをはじめ、全体をやわらかく優しいフォルムに仕上げることで、顕微鏡が持つ気難しいイメージを一新。初めて顕微鏡に触れる学生たちの心理的な抵抗を取り除き、前向きに学習に取り組めるようにしたかったのです」
この骨格パーツは、“持ちやすさ”にも貢献。どこから持っても手にしっくりとなじむ形状になっており、どこの教育現場でもかならず行われる“出し入れ”の作業を安全なものにすることができます。

顕微鏡としての機能は大きく変わらないものの、デザインによって扱いやすさを向上させるための工夫も取り入れられています。対物レンズと開口絞りは、同じ色に合わせることで適切な設定となるようにし、直感的な操作を可能に。使いやすく、学びやすいデザインは、スピーディーな実習を手助けします。

デザインへのこだわりは、さらに細部にまでわたりました。
たとえば、ステージを細かく動かすための微動ハンドルは、大きければ大きいほど扱いやすくはなりますが、そうすると収納場所が制限されます。そこで、最小限のサイズで最大限の扱いやすさを実現できる形を求め、いくつもの試作品をつくって徹底的に検証。外周をつまんでも、側面を指の腹で押しても回せるよう、造形が工夫されています。
QRコードを自分のスマートフォンで読み取れば、オンラインガイドも起動。先生を呼ばなくても、自分で実習を続けられる仕掛けを提案しています。

  • QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。
ACアダプターをきれいに収納可能 指の腹でも操作できる微動ハンドル 開口絞りの操作レバーと対物レンズ
のアイコンの色を統一
白い骨格パーツが生む、親しみやすいフォルム 電源コードも背面にすっきりと収納

いくつもの学校を訪ねた営業部門のメンバーからも「このデザインは、絶対に教育現場で喜んでもらえる!」というお墨付きを獲得。2020年グッドデザイン賞でも、ベスト100に選出され、機能美で高い評価を受けました。
製品のみならずノベルティのスケッチブックなども、デザイナーの小田島の作によるもの。課題の抽出に始まり、製品開発、販売に至るまで、チーム一体となって取り組んだプロジェクトとなりました。

開発メンバーが語るECLIPSE Eiのデザイン

学生さんの力になりたい
バイオサイエンス営業本部 堀江 真一郎

学生さんの顕微鏡に対する心理的なハードルを下げることに、大きく貢献している製品だと思います。私たち自身もこの顕微鏡に愛着を持っており、なかには「かわいらしい顕微鏡」とお客さまに紹介する営業もいます。学生さんの力になりたいというニコンの想いを体現した製品として、これからもお客様の声を聞きながら、さらにすばらしい製品にしていけたらと思っています。

ニコンファンをつくるきっかけに
ヘルスケア事業部 マーケティング統括部 西郷 拓郎

ECLIPSE Eiは、初めて顕微鏡に触れる学生さんのための製品。初めてのニコン製品になる可能性があるからこそ、ニコンデザインのエッセンスを余すことなく注ぎ込めたことには、大きな意味があると感じています。多くの人の協力から生まれた渾身の造形で、一人でも多くの方に顕微鏡を使うことの喜びを感じていただけたら、と考えています。

使い心地の良さ、研究する楽しさを感じられるデザイン
ヘルスケア事業部 技術統括部 阪井 智哉

使い心地の良さを実現したことはもちろん、「研究することの楽しさを感じてほしい」という想いが、デザインを通してカタチになった製品だと感じています。エントリーモデルとして、この顕微鏡がなるべくたくさんの人の手に届き、「初めて使った顕微鏡がニコンでよかった」と思ってもらえると嬉しいです。

ユーザーと一緒に育っていく製品に
光学本部(設計課) 鈴木 俊也

デザイナーのこだわりを近くで感じられる、良い機会になりました。小田島さんと何度も何度も試行錯誤を重ねながら作り上げた日々は、この先も忘れないと思います。だからこそ、学生さんたちには「この顕微鏡を使い倒してほしい」というのが私たちの願いです。喜んで使ってもらうことはもとより、「もっとこんな製品があったらいいのに」というリクエストも大歓迎。ユーザーと一緒に育っていく、そんな製品にできるといいなと思います。

信頼されるデザインを目指して

小田島:ニコンのデザインは、挑戦する人をサポートできる道具であってほしいと思います。自分の仕事に向かう前に、自分の道具と格闘しなくてはいけないようでは、BtoBの製品として失格。これは、教育用顕微鏡でも変わりません。使うたびに学習への意欲が湧いて、もっと見たくなる、使いたくなる。そんなニコンらしい製品になったと思います。ECLIPSE Eiで学んだことを、他の製品にもぜひ活かしていきたいです。

中島:BtoBでもBtoCでも、フラッグシップでも入門用でも、ニコンの製品にはどれも、“信頼”へのこだわりがあります。その一貫したデザインから得られる体験は、「さらに上を目指したい」と思ったとき、スムーズに次のステップへ進むための絶対的な力になることができると思います。このECLIPSE Eiで科学の面白さに目覚めた学生たちが、その才能を開花させていったなら、デザイナーとしてこんなにうれしいことはないですね。