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2020年8月

新たな価値の創造と成長基盤構築を進め、未来を切り拓きます。 代表取締役 兼 社長執行役員 馬立 稔和

持続的な企業価値向上を実現するために

はじめに、このたびの新型コロナウイルス感染症に罹患された皆様および生活に影響を受けておられる皆様に心よりお見舞い申し上げます。

当社は2019年5月に中期経営計画を発表し、企業理念「信頼と創造」、経営ビジョン「Unlock the future with the power of light」という志のもと、「精密・光学のリーディングカンパニー」を目指す姿として掲げました。そして、2020年3月期からの3年間を、持続的な企業価値向上を実現するための「成長基盤構築」の期間と位置付け、長期的な「稼ぐ力」を着実に高めるべく、強固な足場づくりに取り組んでいます。

中期経営計画1年目を総括しますと、まず重点戦略施策である「新たな収益の柱の創出」の一環として、光加工機シリーズの市場投入や、DMG森精機株式会社との包括的な業務提携締結など、材料加工事業の立ち上げに注力したことが挙げられます。また、「既存事業の収益力強化」として、市場が想定以上に縮小する映像事業において事業構造の抜本的改革に取り組むとともにコスト改革を推し進めました。しかし、2020年3月期終盤には新型コロナウイルス感染症の影響により、映像事業では需要減退や新製品発売延期が、精機事業では一部装置の据付の繰り延べが発生しました。その他事業においても急速な市況悪化がおこり、残念ながら通期業績は前期比で減収減益となりました。

新たな価値を創造し、未来を切り拓く

社会が大きく変わりつつある中、当社がどのような価値を今後提供できるかをお伝えします。私は、社長就任より前に実質的なCTOとして、長期成長領域を選定する際に将来の社会環境の変化や、今後必要になると考えられるさまざまな技術や製品の可能性を検討しました。そして中期経営計画では、「デジタルマニュファクチャリング」、「ビジョンシステム/ロボット」、「ヘルスケア」の3点を長期成長領域に見定めました。これらは今後長きにわたって社会のニーズがあると考えています。

例えば、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保は、人と人が接触する社会を大きく変え、ものづくりに大きなパラダイムシフトをもたらします。これに対し当社は、人と同じ空間で共に作業する「協働ロボット」で社会に貢献する製品など「ビジョンシステム/ロボット」の領域で、今まで以上にスピード感をもって提案していきます。

歴史を振り返ると、当社は技術革新とお客様の期待に応えることを原動力に、「新たな価値」を世の中に提供し、貢献してきたといえます。一部のプロフェッショナルのために存在していたカメラを、多くの方が使用できる身近なものにしたことや、国産初の商用ステッパーを発売し、半導体産業の振興に大きく貢献したことなどが挙げられます。B to B、B to Cにかかわらず、新たな価値や機能を備えた製品、サービスを社会に広く提供する先がけになることこそが、ニコンという企業の存在価値です。成長領域においても、技術革新や課題解決の提案を通じて新たな価値を創造することにより、未来を切り拓いていきます。

独自の技術とアライアンスで、材料加工事業を推進

「デジタルマニュファクチャリング」領域に含まれ、中期経営計画期間中に特に注力するテーマである「材料加工事業」では、お客様のものづくりや事業課題の答えを出していくことを狙いとしています。当社独自の光加工技術を柱に、対象物の位置を計測する機能を活用し、刃物ではなく光によって加工する装置を開発して事業展開を加速させています。付加造形を施す「アディティブ加工」、既存の対象物に除去加工を施す「リムーバル加工」、そして部材の表面に微細な溝構造の加工を施す「リブレット加工」の3つの技術を中心に取り組んでいます。

従来の方法では、例えば刃物で金属を加工する際、加工精度を上げるためには、加工装置内の所定位置に対象物を正確に置き、刃物が接触してもズレないようしっかりと固定する必要があります。これは「段取り」と呼ばれる非常に手間のかかる準備作業です。しかし、当社装置は対象物の位置を正確に計測して加工できるため、「段取り」の負担を大幅に減らすことが可能です。また、レーザーによる非接触加工ですので、対象物を固定する必要がありません。

「アディティブ加工」は、一般には3Dプリンターとして認識されている加工方法で、積層造形とも呼ばれます。従来の刃物加工にはできない複雑な形状を作ることができます。ゼロから造形するだけでなく、既存の対象物に付加することもできるため、欠けたり、摩耗したりした部品を補修することも可能です。当社の装置は精密な付加加工が可能なため、高い精度が要求されるものの補修などへの活用も期待されます。

「リムーバル加工」を可能とする当社の開発中の装置では、半導体露光装置で培った精密計測、精密補正技術を活用し、非常に広い範囲を高精度に加工できます。さらに、加工と計測を自動で繰り返すという「追い込み加工」を行い、サブマイクロメートルレベルの高精度平面仕上げや微細加工を簡単に実現できます。

そして「リブレット加工」は、バイオミメティクス(生物模倣)の考え方を取り入れた加工技術です。サメの肌の表面形状のような緻密な溝を周期的に施し、流体抵抗を低減する機能表面を実現できます。タービンブレードや航空機の表面を加工すれば、燃費改善、CO2削減が可能となり、環境への配慮といった観点からも重要と考えています。当社は、独自の光計測・精密制御を応用した技術を用いて、効率性がより高い加工を提案していきます。

材料加工事業では、他社とのアライアンスによって、新たな価値創出に欠かせない経験や知見を得たり、当社がこれまで接点がなかったお客様との販路を得たりするなど、シナジーの創出を進めています。今後、M&Aやさらなるアライアンスを進め、成長のスピードを一段と速めていきます。中長期的には、材料加工事業を中核とした成長領域の事業を売上1,000億円以上の規模へ成長させることを目指しています。

既存事業の収益力を強化する

中期経営計画1年目は、想定よりも厳しい結果となりました。今期の事業環境も、新型コロナウイルス感染症の影響により全般にわたり近年にない厳しい状況となる見込みです。

映像事業は、カメラなどの製品が嗜好品であるだけに厳しい展開が予想され、2期連続の赤字を覚悟せざるを得ない状況です。早期黒字化を目指し、さらに踏み込んだ構造改革を加速させ、事業の再構築を確実に進めます。

精機事業やヘルスケア事業は、中長期的には市場は堅調であり、事業機会の拡大によって、利益規模の拡大を目指します。FPD露光装置の据付の一部は、2022年3月期に繰り延べせざるを得ないものの、安定的にキャッシュを創出し、成長に向けた原資を確保します。

180億円の削減を掲げているコスト改革は、2020年3月期に目標を上回る成果を上げました。一方、足元では映像製品の生産縮小によって部材調達量が減少し、調達コストダウンへの逆風があります。しかし、物流改革を新たにスコープに加え、さらなる管理間接業務のスリム化を進め、目標額以上の削減を目指します。

当社は、リスクと機会をしっかり整理し、中長期視点をもって事業の早期リカバリーおよびこれからの時代を見据えた経営施策を策定、実行するための活動を進めていきます。

映像事業の構造を抜本的に変革する

主要な既存事業である映像事業は、再建に向けて事業構造を抜本的に変革しています。2019年11月に発表した映像事業の構造改革では、事業運営費※を2019年3月期比で500億円削減する方針を掲げました。厳しい環境の中、早期黒字化を目指し、さらに踏み込んだ構造改革を加速して削減額の上乗せを行い、収益性を抜本的に改善します。

新型コロナウイルス感染症により生活様式がシフトする中、オンライン化がさらに進んだ新しい文化において、映像関連ツールやコンテンツはますます重要になります。そして、映像の発信は、よりパーソナライズされていくでしょう。これらの新しい波に合わせ、製品・技術開発やオンラインサービスに注力していきます。

当社の長い歴史の中で育んできた映像関連技術は、長期成長領域と見定めている分野においても、極めて応用範囲の広い貴重なアセットです。また、現在のB to Cを中心とした事業から、B to Bも含めたより広い領域へと挑戦することで、もう一度成長するための道筋を見つけていきます。

映像事業の苦境に対し、経営として十分に対処しきれなかったことを真摯に受け止めています。中期経営計画期間中に行う改革や施策にスピード感をもって対応し、持続的な成長に向けた基盤構築を進めていきます。

※ 事業運営費=売上原価に含まれる固定費+販売費及び一般管理費

コーポレート・ガバナンスの強化

この数年、コーポレート・ガバナンスの強化に積極的に取り組んでいます。2019年5月に、取締役会の諮問機関として指名審議委員会を設置し、役員の選解任基準や社長執行役員の後継者計画の策定、取締役会の最適構成の検討などを進めてきました。そしてこのたび、新たに社外取締役として村山滋さん、山神麻子さんの2人を迎え、取締役の多様性を拡大しました。今後も、企業価値の向上に向け、コーポレート・ガバナンス強化に努めていきます。

従業員と会社のエンゲージメントを強化

当社は、企業理念の「信頼と創造」のもと、誇りをもって製品やサービスを提供し、お客様の要望や期待にお応えしています。ニコンブランドは、お客様と共に築き上げた価値あるブランドであり、高い技術力は、厚い信頼を支えています。

ニコンブランドというと、多くの方がデジタルカメラをはじめとするB to Cの領域を想起すると思いますが、当社は精機事業をはじめとしたB to B領域においても多くの事業を展開しています。そのため、「ブランド戦略チーム」を立ち上げ、お客様に対してはB to B領域におけるニコンブランドを定着させ、従業員に対してはニコンやニコンブランドの存在意義を今一度深く考えさせる活動を行っています。中長期の成長基盤構築に向けて、従業員の意識やモチベーションの向上を図っていきます。

従業員と会社のエンゲージメント強化の1つとして、従業員と直接触れ合い、対話することを目的に「社長タウンホールミーティング」を実施しました。2019年7月から約8カ月をかけて、国内外14事業所、約6,600人に対し、フェイス to フェイスで中期経営計画に込めた私の思いを共有し、従業員からも意見や思いを直接伝えてもらいました。

社会に欠かせない存在を目指す

私は、経営において「イノベーション」、「プロフィタビリティ」、「サステナビリティ」の3点が重要だと考え、「社長タウンホールミーティング」でも従業員に繰り返し伝えてきました。

まず「イノベーション」。技術やビジネスの革新を追求し、未来を切り拓く製品やサービスを提供することは最も重要です。次に「プロフィタビリティ」。人、資産、資金などの資本を効率的に活用し、収益性を高めていくことは企業として不可欠です。そして、「サステナビリティ」です。企業は、持続可能性の観点からも、将来世代のニーズに応える仕組みをつくらなければなりません。当社は、企業理念「信頼と創造」を事業活動の中で具現化し、社会の持続可能な発展に貢献していこうと考えています。

変容する社会環境の中で、当社がどのように社会に貢献し、価値ある存在であり続けたいかという視点で考えることにより、今どのような行動を起こすべきかを明確にします。そして、社会の一員として有益な存在となることで、提供するモノやサービスに見合った対価の取得が可能となり、それがさらなる発展につながると考えています。

ステークホルダーの皆様へ

経済や人々の価値観など、世の中が変化するスピードはさらに加速しつつあります。その中で、より一層、当社ならではの価値の提供を実現する活動や事業に力を入れていきます。もちろん、業績をいち早く回復するという足元の課題についても、最優先事項として取り組みます。

状況は予断を許しませんが、新たな取り組みを機動的に進め、対応力を高めます。全社一丸となって難局を乗り切るとともに、成長に向けた基盤構築にスピード感をもって、取り組んでいきます。

ステークホルダーの皆様からのご期待にお応えできるよう、引き続き全力を尽くしていきます。今後ともご支援いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。