1959 One Minute Story Fのデザイン秘話

亀倉雄策ただ一つのインダストリアルデザイン

1956年秋。ニコン初の一眼レフカメラ「ニコンF」の開発がスタートした。

ボディーデザインはグラフィックデザイナーと共同設計することになり、亀倉雄策が起用された。ニコンのロゴデザインなどを手がけてきたグラフィックデザインの大家だ。

「F」の開発は社内でも秘密で、工場内に四畳半くらいの部屋を作り、設計チームのまとめ役であった更田正彦(後の日本光学工業副社長)と極秘に作業したのだった。

亀倉 :「デザインによけいな口を差し挟まれたくない。」

更田:「大丈夫だ。重役陣にもこのことは伏せてある。」

亀倉によるニコンF開発初期のデザイン画

亀倉 :「デザインの方針は決めてある。これまでのカメラとは一線を画し、直線的なデザインにしよう。」

更田はその秘密部屋に開発途中のモデルをもってきて、亀倉に見せる。

更田:「どうだろう。」

亀倉:「ここはもっとどうにかならないのか。」

更田:「いや。内部機構があるから無理だ。」

亀倉:「……一眼レフの特徴はペンタプリズムだ。これを活かそう。」

ペンタカバーの製造は難しく、亀倉のデザインを活かそうとすると穴があいたり、失敗の連続だった。

悩む更田
ニコンFのペンタカバー部

更田 :「頭を切ってくれないか。」

亀倉:「カッコ悪い。ぜったいだめだ」

何度も試作を繰り返し、

1959年6月、後に「名機」と評され、多くの人に愛されるニコンFが発売された。ピラミッド型ファインダーのデザインは、国内では当初幽霊の三角頭巾を連想するというネガティブな意見もあったがアメリカでは好評を博した。

How nice !

ニコンF

世界的グラフィックデザイナーである亀倉が手がけたインダストリアルデザインは、唯一このFだけである。

持つ者の気持ちまで変えたデザイン

ニコンFのもつ機能と雰囲気、特にピラミッド型ファインダーに象徴される直線を基本としたシャープなボディーラインは、それを手にする写真家の気持ちにまで影響を与えたとも言われている。比較的丸みのあるカメラボディーが主流だったこの当時、ニコンFはあえて直線的な外観を追求した。それが端的に表れているのが三角形のペンタカバーで、他のカメラにはない鋭角的なフォルムはニコンFを象徴するキーパーツとなり、アメリカ市場向けの雑誌広告ではペンタカバーをクローズアップしたものも作られた。
ニコンFは、洗練されたボディーラインや印象的なFマークの彫刻などを含めた美しい外形が好評を博し、1966年9月にニコンのカメラでは初めて通商産業省(現・経済産業省)のグッドデザイン商品(以下、Gマーク商品)に選定された。

カメラのシルエットを強調したポスター
左からニコンFのパンフレット、取扱説明書、カタログ

亀倉雄策のニコンとの繋がり

亀倉雄策とニコンの出会いは1944年。写真家の土門拳の紹介によるものだった。1953年の「ニッコール年鑑」等が記録に残るもっとも古い仕事で、以後、ポスターをはじめ、カタログ、取扱説明書、商品化粧箱、カレンダー、ネオン塔など多岐に渡ってニコンをデザインし、数々の力作を世に送り出した。
ニコンのロゴもデザインしている。1956年頃に使用され始めたデザインの原型は、1968年に亀倉自身の手で改良され、正式に採用された。1988年の社名変更時も亀倉は再度改良している。一見すると違いは分からないが、ロゴタイプ(文字部分)の傾きを若干変更している。2003年から使用している現行ブランドシンボルは、1988年制定のロゴタイプに光のイメージを取り入れたものとなっている。
1964年の東京オリンピックやグッドデザイン賞のロゴデザインをはじめ、EXPO’70のポスター、商品デザインや企業のシンボルマークなど数多くの作品を残している亀倉だが、生涯にわたって手がけたニコン関連のデザインは、まさに代表作であり、ライフワークとも呼べる仕事であった。

亀倉が携わったブランドシンボルの歴代デザイン
亀倉雄策