Fのデザイン秘話
亀倉雄策ただ一つのインダストリアルデザイン














持つ者の気持ちまで変えたデザイン
ニコンFのもつ機能と雰囲気、特にピラミッド型ファインダーに象徴される直線を基本としたシャープなボディーラインは、それを手にする写真家の気持ちにまで影響を与えたとも言われている。比較的丸みのあるカメラボディーが主流だったこの当時、ニコンFはあえて直線的な外観を追求した。それが端的に表れているのが三角形のペンタカバーで、他のカメラにはない鋭角的なフォルムはニコンFを象徴するキーパーツとなり、アメリカ市場向けの雑誌広告ではペンタカバーをクローズアップしたものも作られた。
ニコンFは、洗練されたボディーラインや印象的なFマークの彫刻などを含めた美しい外形が好評を博し、1966年9月にニコンのカメラでは初めて通商産業省(現・経済産業省)のグッドデザイン商品(以下、Gマーク商品)に選定された。


亀倉雄策のニコンとの繋がり
亀倉雄策とニコンの出会いは1944年。写真家の土門拳の紹介によるものだった。1953年の「ニッコール年鑑」等が記録に残るもっとも古い仕事で、以後、ポスターをはじめ、カタログ、取扱説明書、商品化粧箱、カレンダー、ネオン塔など多岐に渡ってニコンをデザインし、数々の力作を世に送り出した。
ニコンのロゴもデザインしている。1956年頃に使用され始めたデザインの原型は、1968年に亀倉自身の手で改良され、正式に採用された。1988年の社名変更時も亀倉は再度改良している。一見すると違いは分からないが、ロゴタイプ(文字部分)の傾きを若干変更している。2003年から使用している現行ブランドシンボルは、1988年制定のロゴタイプに光のイメージを取り入れたものとなっている。
1964年の東京オリンピックやグッドデザイン賞のロゴデザインをはじめ、EXPO’70のポスター、商品デザインや企業のシンボルマークなど数多くの作品を残している亀倉だが、生涯にわたって手がけたニコン関連のデザインは、まさに代表作であり、ライフワークとも呼べる仕事であった。

