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金星から探る地球の未来

探査機「あかつき」に搭載されるニコンの光学系

地球の双子星といわれる金星。しかし、とうてい人が住める環境ではありません。
果たして地球の未来の姿なのか。今、その解明に迫ろうとしています。

金星は地球の未来の姿?

明けの明星、宵の明星として知られる「金星」。大きさや質量、構成物質などがよく似ていることから、「地球の双子惑星」とも言われ、誕生したばかりのころは、大気の成分も同じようだったと考えられています。しかし、現在の環境はまったく異なっています。

なぜ、金星の環境は変化してしまったのか。その理由が解明できれば、地球が穏やかで生命に満ちた惑星になぜなったのかがわかるかもしれません。そして、地球温暖化現象がさらに進んだ時、地球の気象がどのように変わっていくのかが見えてくる可能性もあります。金星は、私たち地球の未来の姿なのかもしれないのです。金星の大気現象を解明する使命を背に、今、日本の探査機「あかつき」(PLANET-C)がその周回軌道を巡っています。その成果に世界中から大きな期待が寄せられています。

© 池下章裕

謎多き金星の大気

その輝きから、イシュタル(メソポタミア)、アフロディーテ(ギリシャ)、ビーナス(ローマ)など、さまざまな美の女神の名がつけられた金星。美しさの最大の理由は、上空50~70kmで惑星全体を取り巻く雲が、太陽光の78%をも反射することにあります。しかし、その正体は、濃硫酸。大気の97%は二酸化炭素地表気圧は地球の90倍、平均温度はセ氏500度。もちろん、水は一滴も存在しません。その美しさとは裏腹に過酷な環境のため金星探査の難易度は高く、地球からもっとも近い惑星でありながら、いまださまざまな謎が残されています。

中でも、複数の層からなる大気の多くが未解明で、特に上空で吹き荒れる時速400kmにも達する暴風「スーパーローテーション」の原因解明が待たれています。「あかつき」はこれらの大気の動きを明らかにしようとしています。しかし、大気の性質は層ごとに大きく異なり、単一の波長でとらえることはできません。重層的な観測を行うため、「あかつき」には、気温などの高度分布を観測するための電波発振器と、赤外線、可視光線、紫外線で金星大気を撮影する5台のカメラが搭載されています。このうちニコンは、3台のカメラの光学系設計と1台のレンズの設計・製造を担当しました。

観測カメラの光学系とレンズを
設計・製造

宇宙で使用される機器に求められるのは「絶対的な信頼性」。一度地球を離れてしまえば、修理はできません。しかも、打ち上げ時には激しい振動や衝撃を受け、宇宙空間では真空状態や急激な温度変化など、過酷な環境にさらされます。このため、超精密機器でありながら、これらの環境に耐えられる仕様が求められます。重さや大きさも厳しく制限されます。ニコンは、試行錯誤を繰り返した末にすべての要求を満たす機器を完成させ、無事に「あかつき」に搭載されました。

振動試験

ところが、2010年最初の金星周回軌道投入に失敗した「あかつき」は、2015年の金星周回軌道投入まで予定外の軌道をたどります。予定よりも太陽に近づく軌道をたどったため、想定の1.3倍という熱環境に何度もさらされた観測カメラに心配がおよぶ中、「あかつき」は、高精細な金星の写真を地球に送ることで機器の無事を告げました。異なる惑星の気象を学び、科学を前進させ、私たちの未来に生かすため、「あかつき」は今この時も、金星を回り続けています。

相反する条件を満たすのが、メカ設計の腕の見せ所

カスタムプロダクツ事業部
江崎 龍彦

特に苦労したのは、光学レンズを固定する鏡筒部分の設計です。光学レンズは、光学性能を維持するためにレンズが変形しないよう、やさしく保持する必要があります。しかし、その一方で、激しい衝撃や振動に対して各レンズに位置ズレが発生しないよう、しっかりと固定しなければなりません。

素材選定も困難の連続でした。軽い素材は装置全体を軽量化できますが、堅牢性に難が生じます。重く変形しにくい素材では、軽くするために極めて薄くしなければなりません。

これらの相反する要件を満たすことが、メカ設計者としての腕の見せ所です。また、ニコンは幾度となく宇宙に製品を送り込んできました。今回の成功は、これまで積み重ねた技術と経験の、ひとつの集大成といえます。