トップメッセージ

代表取締役 兼 社長執行役員 馬立 稔和

サステナブルな未来へ向けて

サステナビリティ戦略とマテリアリティ

2022年4月、ニコンは中期経営計画(2022~2025年度)を発表しました。この計画は、「2030年のありたい姿」として「人と機械が共創する社会の中心企業」を掲げ、その実現に向けた前半のフェーズとしています。またその中期経営計画において、経営基盤のひとつにサステナビリティ戦略を位置付け、事業とサステナビリティを一体として取り組むことを基本方針としています。

ニコンのサステナビリティは、企業理念である「信頼と創造」に基づいています。事業が社会・環境から受ける恩恵とそれらに与える影響を常に評価、改善し続け、社会の期待に「信頼」で応えること、事業を通して社会・環境課題の解決やSDGsの達成に貢献する価値を「創造」することが柱です。

2022年度は、当社のサステナビリティがこれらの柱に沿い、「2030年のありたい姿」に到達するために適切なものとなるよう、活動の軸となるマテリアリティ(重点課題)の点検を行いました。この点検にあたっては、ステークホルダーの意見や期待を重視し、従業員の意見を幅広く集めるとともに、私をはじめとする経営層が外部の有識者と議論し、客観的な意見も反映しました。

その結果、12のマテリアリティのうち、2つを見直しました。ひとつは「サプライチェーン管理の強化」を「レジリエントなサプライチェーンの構築」としました。さまざまな事業環境の変化に対して、サプライチェーンを構成する各社と協力し、よりフレキシブルで俊敏に対応できる体制を築いていく考えです。
そしてもうひとつは「ダイバーシティ&インクルージョン」を「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」(DEI)としました。ニコンでは、中期経営計画において「人的資本経営」も経営基盤のひとつに掲げています。従業員一人ひとりの事情に応じた公平な機会を提供し、皆が活躍し、挑戦する企業文化を醸成するDEIは、この人的資本経営の土台となる重要な施策のひとつです。

人的資本経営

「2030年のありたい姿」では、ニコンはこれまでの完成品中心から、完成品・コンポーネント・サービスいずれのニーズにも対応できるソリューションビジネスへと転換を図っています。それを実現するためには、人材の質・量両面での転換と拡充が必要です。

ニコンでは、「人材獲得」「人材育成」「人材活躍」の3つを柱として人的資本経営を進めています。ビジネルモデルの転換に不可欠なソリューションエンジニアの育成、多彩なキャリア入社者の獲得とその活躍をサポートする支援体制の強化、そして、やりがい・働きがいを向上させる人事・賃金制度の改訂、効率的で働きやすい新本社オフィスの建設など、さまざまな施策を実施しています。

そのような施策を進めるにあたり、私が重視していることは、「従業員が主体的に考え、行動する」ことです。お客様のビジネスの成功を考え、社内外のリソースを連携させ、最適なソリューションを提案するためには、知識・スキルとともに主体性のある人材の集団となることが不可欠です。ニコンは一人ひとりが能力を最大限に発揮して、やりがい・働きがいを感じられる環境を整えるとともに、従業員の自覚を促すことにより、自律的に人材が育つ企業となることをめざします。

人材の成長は事業を発展させ、さらに高く広いステージで人材が活躍できる機会をもたらします。そうした好循環を継続していくことで、人と機械が共創する社会の中心企業となるという「2030年のありたい姿」を実現し、社会やお客様への価値提供力を高める企業として成長できると考えています。

「信頼」に応える

マテリアリティのひとつであり、人的資本経営においても重要な施策と捉えているDEIについて、ニコンは、グループ全体での取り組みを一層強化していくため、2023年4月に「Nikon Global Diversity, Equity & Inclusion Policy」を策定しました。本ポリシーに基づき、従業員一人ひとりが、ともに働く仲間の個性や能力を認め合い、活かし合うことのできる職場環境や企業文化の醸成をめざします。

ニコンでは、このDEIを含む12のマテリアリティごとに、ありたい姿を定めました。併せて、個々のマテリアリティのリスクと機会双方に適切に対応するための戦略と、その進捗をフォローする指標と目標を定めました。

例えば「脱炭素化の推進」については、ニコン環境長期ビジョンにおいて、サプライチェーン全体の「2050年度カーボンニュートラル達成」を目標に掲げています。事業拡大を図る一方で、温室効果ガス排出量を着実に減らしていくためには、さらに積極的な施策の展開が必要です。その認識のもと、経営において議論を重ね、エネルギー使用量の大きいタイと栃木の生産拠点においては、2023年度より使用電力の100%再生エネルギー化を図ることを決定しました。
このほかにも、サプライチェーンにおける人権デュー・ディリジェンスの実施や製品のライフサイクルを通じた資源循環の推進など、お客様、そして社会の信頼に応えられるよう、各マテリアリティで定めた指標および目標の着実な達成に向けた取り組みを進めているところです。

「創造」による貢献

ニコンの歴史を振り返ると、光利用技術と精密技術を核として、人が機械を用いて新しい世界を開拓すること、新たな体験や可能性を拡大することに貢献してきました。これは、今後も変わらないニコンの役割だと私は考えており、「マテリアリティ1:コア技術による社会価値創造」に、特に注力していく方針です。

2030年の社会は、価値観、生活・人生観、社会の枠組み、そしてテクノロジーのメガシフトが起き、人と機械の共創が進んだIndustry5.0への転換が予測されています。この転換を支える重要な役割を果たしたい。そして、社会をよりサステナブルに、人をより豊かで幸せにしていきたい。この決意のもと、中期経営計画では、人間の可能性を拡げる「インダストリー」と、人生を豊かにする「クオリティオブライフ(QOL)」の2つの価値提供領域において事業を展開し、「安全・労働環境」「脱炭素」「資源循環」「健康」「心の豊かさ」の領域に貢献することを掲げています。

2022年度は、その1年目として、例えば「脱炭素」では、流体の摩擦抵抗を低減させることで、燃費やCO₂排出量の削減が期待できるリブレット加工の事業化を進めました。2022年には日本航空株式会社の機体において、世界初となる塗膜に直接リブレットを施工しての実証実験を開始しました。また、全日本空輸株式会社の機体において、本加工を施したフィルム装着の実証試験も開始しており、私たちの試算では、全日本空輸株式会社の全機体に導入した場合、年間約30万トンのCO₂排出削減が見込まれます。

また、「安全・労働環境」および「資源循環」では、世界有数の金属3Dプリンタ専業会社であるSLM Solutions Group AGを2023年1月に子会社化し、4月からは社内の材料加工事業を統合してアドバンストマニュファクチャリング事業部を立ち上げました。ものづくりにおける自動化や省資源・廃棄物削減に貢献する付加加工、精密除去加工で、お客様に革新的なものづくりのソリューションを提供し、金属アディティブマニュファクチャリングの分野における世界的リーディング・プレイヤーをめざします。

今後も、これら中期経営計画で成長ドライバーに掲げた各分野の事業化を加速するとともに、既存の事業を含め、社会に貢献する価値創造とその拡大を図っていきます。

未来へ向けて

世界を見渡すと、痛ましい紛争が未だ終結せず、新型コロナウイルス感染症との共存を前提とした生活のあり方など、喫緊の社会課題が多くあります。
このような状況において、ニコンは、サステナブルな社会に向けて何ができるのかを自らに問い続け、社会への貢献度をさらに高めていきます。
ステークホルダーの皆様には、これからのニコングループにご期待いただくとともに、引き続きご支援をお願い申し上げます。

2023年8月
代表取締役 兼 社長執行役員
馬立 稔和