ハイライト

低炭素社会の扉をひらくニコンのものづくり

ニコングループでは、ニコン環境長期ビジョンの3つの柱のひとつに「低炭素社会の実現」を掲げ、2030年までにCO2排出量の26%削減を目標としています。この目標を達成するためには、これまで継続してきた、オフィスにおける省エネ活動や、生産設備の効率化などに加え、技術力を活かして環境負荷低減に取り組むことが大きなポイントとなります。
ニコンでは、CO2排出量が多いレンズの製造工程に着目し、技術力によるCO2削減を推進しています。

ニコンの根幹技術「レンズ製造」が
CO2削減の鍵を握る

ニコングループ内でのレンズ製造分野のCO2排出量割合(t-CO2)は、レンズ製造分野24パーセント、その他76パーセント
  • 本数値の算出範囲は、ニコンおよび国内グループ会社16社、海外グループ生産会社5社
  • 算出の上での係数については、環境アクションプランおよび、それに関連するニコンと国内グループ会社のCO2排出量はアクションプラン管理用の固定係数を使用

ニコンの根幹技術のひとつである「光利用技術」を活用した代表製品が“レンズ”です。ニコンのレンズは、顕微鏡や望遠鏡、医療用機器、半導体露光装置、特注品の宇宙関連機器にいたるまで、さまざまな機器や装置に組み込まれており、高い性能や品質を実現するために欠かせない存在になっています。

ニコンのさまざまな製品の製造工程における環境負荷を調査したところ、このレンズ製造において、多くのエネルギーが消費されていることが分かりました。ニコンでは、レンズの基となる材料から製造しているため、レンズ製造によるCO2排出量は、ニコン全体の約4分の1を占めるほどです。
ニコンでは、これらの開発から製造にいたるまでの工程の効率化を、CO2削減の重要課題と位置づけ、取り組みを開始しました。

レンズ製造における環境負荷をさらに分析してみると、CO2削減に向けては、原材料である「合成石英ガラスの製造」と「光学ガラスの製造」に重要な課題があると特定しました。この課題改善に向けた活動の一例をご紹介します。

シミュレーションにより合成石英ガラスの
試作回数を大幅にカット

石英ガラスは、二酸化ケイ素のみを成分とし、透明度が高く、熱や薬品に強いなどの特長をもつ特殊ガラスです。 その特長を活かして、限界的な精度と耐久性が求められる半導体露光装置や、FPD(フラットパネルディスプレイ)露光装置などに組み込まれるレンズに用いられます。
合成石英ガラスは、原料を超高温で反応させ、1カ月かけて約1トンのインゴットと呼ばれる棒状のガラスに積み重ねて製造します。 インゴット製造において、エネルギー消費量や廃棄物排出量を減らすためには、製造工程を効率化することで少しでも原材料のロスをなくし、かつ不純物などを入り込ませないようにすることが重要です。
しかし、インゴットをひとつ試作するだけでも多大なエネルギーと時間を消費してしまうため、新しい効率化のアイデアを試すことすら容易ではありません。 そこで、ガラス事業室では、インゴット製造の実験を仮想化環境で行うため、品質工学をCAE(コンピュータによる設計・製造支援)と組み合わせて導入しました。このシミュレーションのモデルを設定するには、流体力学や化学反応など、さまざまな条件の組み合わせを考慮しなければならず、非常に高い技術力が必要となります。
ニコンは長年にわたり培ってきた技術力によりこのハードルを乗り越え、経験の蓄積から生まれた新しいアイデアを、このシミュレーションで検証。インゴット製造の効率化に向けた大きな一歩を踏み出しました。

ある加熱炉の事例では、実際に試作して実験を行った場合に比べて、約52,000kWhの電気を削減することができました。これはCO2に換算すると26.3トンに達します。今後も品質工学とCAEの活用を進め、さらなる環境負荷の低減とスピーディーな開発・量産の立ち上げを目指します。

環境効果 CO2排出量 26.3トン/年 削減

CAEが持つ可能性を最大限に活用していきたい

私は普段、より効率的にガラスを生産するため、製造プロセスの見直しや製造装置の改良を行っています。 その中でも、CAEによるシミュレーションは、CO2排出量削減に大きな貢献を果たしてくれるものと確信しています。 また、製造工程の使用エネルギーの観点だけでなく、試作を減らすことで原材料使用量や廃棄物を削減し、製造装置自体の寿命を長くし、さらには開発スピードの向上にもつながり、お客様にも喜んでいただけるものと思っています。 この大きな可能性を持ったCAEのさらなる有効活用に向けて尽力していきます。

株式会社ニコン ガラス事業室第一製造部
武村 直輝

プレス加工の精度を追求し
CO2と廃棄ロスを削減

光学ガラスは、カメラ、顕微鏡、測定機などの精密光学機器など、生活の中で目にする機会も多いレンズに使用されます。
レンズは円形のため、円柱状のガラスをスライスするというイメージがあるかもしれません。しかし、実際は四角く切り出したガラスの塊を、丸い球面をもつ金型でプレスし、そのプレス加工品を研磨してつくっています。プレス加工前のガラスの塊の種類は100種以上あり、プレスのための金型も多数あるため、レンズの組み合わせは無限大です。そのため、プレス加工の条件を決める工程は熟練者の経験に頼っていましたが、どうしても加工にばらつきが出てしまうため、目的の形状より研削代を大きめにとってつくることが日常化していました。
光ガラスでは、この課題解決に向け、品質工学によりプレス加工工程の最適化に向けた取り組みを推進。その結果、このばらつきを40%も抑えて加工できるようになりました。

プレス加工工程の最適化を実現したことで、プレス加工品1個当たりのガラス重量を10%削減することができました。この取り組みを既存の16製品に展開した結果、原材料の削減等によるCO2削減効果は、年間36.8トンになりました。さらには、研削代が減ったので、研削時間も短くなり、研削による廃棄物量も10%削減できました。

環境効果 CO2排出量 36.8トン/年 削減

生産システム全体の省エネ化に貢献していきたい

私はプレス加工の工程を最適な形にするための研究開発を担当しました。もちろんニコンはこれまでも、廃棄となるガラスをリサイクルに向け徹底的に分別するなど、環境負荷低減のためのさまざまな取り組みを行ってきました。さらに、そもそも製造工程で不良品を生み出さないことも、環境負荷低減の取り組みとして非常に効果的だと考えています。プレス工程改善の取り組みはCO2排出量と廃棄物の削減に寄与するひとつの成果事例ですが、今後は他工程の効率化などにも携わり、より俯瞰的な視点で生産システム全体の省エネ化を進めていきます。

光ガラス株式会社 生産本部技術部3グループ
グループリーダー
高橋 浩之

次の100年を見据えてニコンの挑戦は続く

ニコンでは、社内発表会を定期的に開催し、それぞれの製造現場で生まれた優れた技術を表彰しています。今回ご紹介したCAEによる仮想実験も、社内発表会で表彰され、情報共有が行われました。新たな技術やノウハウが、部門を超えて共有されることで、ニコングループ全体での技術向上につながり、さまざまな成果をあげています。
ニコンは2017年7月に、創業100周年を迎えました。これまでの100年、多くの課題を技術力によって克服し、現在ではカメラから半導体まで、さまざまな領域で事業を展開するにいたりました。
そして今、世界全体が環境問題という喫緊の問題に取り組んでいます。その中でニコンは、これまでの信頼を支えてきた高い技術力によって、この問題に取り組んでいきたいと考えています。それは、今回紹介した製造工程の改善だけではなく、例えば、お客様が長く使い続けることができる、高品質な製品を展開することも含まれます。
今後も、「信頼と創造」という揺るがない信念と確かな技術力で、豊かな未来の実現に向けた取り組みを進めていきます。

関連情報