交換レンズ ナノクリスタルコート ゴースト、フレアを激減させるレンズ設計の革命技術

1. 高画素化するデジタルカメラと交換レンズ


同じ画素数でもさまざまなデジタルカメラがあります。

現在、デジタルカメラの普及が目ざましく、プロフェッショナルフォトグラファーもほとんどがデジタルカメラを使用するようになっています。これはデジタル画質がプロの使用に耐えられるクオリティに達した結果といえるでしょう。では、デジタルカメラの画質はどのようにして決まるのでしょうか? デジタルカメラの画質を表すひとつの基準として撮像素子の画素数があります。デジタルカメラは高画素化が進み、カメラ機能の付いた携帯電話でも500万画素の製品が市場に現われています。しかし、同じ500万画素といってもカメラ付き携帯電話、コンパクトデジタルカメラ、デジタル一眼レフカメラの撮影画像を比べると明らかに画質に差があります。その原因は一体何でしょうか? これはデジタル処理する前のアナログ情報、すなわち光を透過させるレンズの性能で画質が左右されるからです。つまり、センサーに光を送るレンズの性能が劣っていたのなら、そこから得られるデジタル画像はたとえ高画素であっても高画質にならないということです。より多くの光をとらえ、高精細な像を結ぶように高度な光学技術で作られた交換レンズがあってこそ、デジタル一眼レフカメラは高画質な画像を記録できるのです。

2. 交換レンズの構造とコーティング


レンズ面で光が反射しロスしていく様子

一眼レフカメラ用の交換レンズには、広角系レンズ、望遠系レンズ、ズームレンズなど、撮影用途に応じて、さまざまな種類があります。カメラのレンズは何枚ものレンズを組み合わせて作られ、そのレンズの組み合わせにより、像の歪みや色ズレを補正します。一眼レフカメラ用の交換レンズでは、10枚以上のレンズで構成されている製品もあります。レンズの枚数を増やすことで画質を向上させることはできますが、光はレンズを通るうちに、反射により光量が低下していくことを免れません。一般にガラスは表面で4~9%の光を反射します。1枚のレンズ(光は表と裏の2面を通過)で考えた場合、光の損失は8~18%にも達してしまいます。こうした反射による光の損失を低減するための技術がコーティング技術で、レンズの性能はコーティングによって大きく影響を受けます。また、カメラのレンズに限らず、メガネのレンズや飛行機の操縦席の窓ガラスなど、光の反射を抑制して対象物を見やすくするために、レンズやガラスにはさまざまなコーティングが施されています。

カメラはフィルムからデジタルへと変化することで新たな問題を生むことになりました。フィルムが光を受ける場合、表面が鏡面でないため光が適度に散乱して反射を抑えることができましたが、デジタルカメラの場合には光を受ける撮像面で強い反射が発生してしまいます。デジタルカメラはフィルムカメラと比べ、ゴースト※1、フレア※2が目立ちやすい構造といえるのです。その結果、デジタルカメラ用の交換レンズのコーティング技術には、これまでのフィルムカメラ用交換レンズの反射防止を超える高精度の光学的な性能が求められることになりました。


撮像素子の反射によるゴーストの発生する仕組み

  • ※1 ゴースト:撮影時の強い光がレンズやカメラ本体内部で反射を繰り返すことによって画像に生ずる放射状、リング状、円形の光。典型的なゴーストは絞りの形をしている。
  • ※2 フレア:ゴーストと同様に撮影時の強い光がレンズやカメラ本体内部で乱反射することで画像のコントラストを下げ、部分的に白っぽくなったり、色がにじむ現象をいう。

3. ニコンの最先端コーティング技術、「ナノクリスタルコート」

基板・下地膜の上にナノ粒子が「粗」な構造で集まっている。
ナノクリスタルコートの構造

「ナノクリスタルコート」は、ニコンが半導体露光装置を開発する過程で、投影レンズに利用されていたナノ粒子膜をカメラの交換レンズに応用したものです。この超低屈折率膜は、膜を構成している粒子の大きさが、数ナノメートル(1ナノメートルは1/1,000,000ミリメートル)から10数ナノメートルであることから、ナノ粒子膜と呼ばれています。「ナノクリスタルコート」の粒子膜は、従来のコーティングが『密』であるのに対し、「ナノクリスタルコート」という先鋭的な名称からイメージされがちな『高密度』の状態ではなく、むしろ逆に粒子と粒子の間に均一な隙間を空けた「雷おこし」のような『粗』な構造となっています。つまり粒子と空気が混ざりあったような状態を作り、屈折率が小さい環境を実現しました。透水性の高い舗装道路に似た環境をつくりあげることで光を通過しやすくしているのです。


従来のコーティングとナノクリスタルコートの反射率の違い

「ナノクリスタルコート」は、従来の反射防止膜に比べて垂直に入射する光の反射をより低く抑え、広い波長域で極めて高い反射防止効果を実現しています。さらに、従来のコーティングでは難しかったレンズ斜めから入射する光に起因するゴースト、フレアに対しても、これまでにない優れた効果を発揮します。その威力は絶大でプロフェッショナルフォトグラファーの間でも高い評価を得ています。また、写真関係や光学製品以外にも活躍の場は広がりそうです。宇宙開発などの先端分野をはじめ、双眼鏡やフィールドスコープといった身近な光学製品、さらにガラスだけではなくプラスチック系素材にも適用できるため、私たちの生活の身近なところで驚くような成果をもたらすかもしれません。「ナノクリスタルコート」は、まさに大きな可能性を秘めた新技術です。


ナノクリスタルコート採用


従来のマルチコート