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宇宙と光 宇宙を満たすダークエネルギー

 宇宙には何かが満ちている。古くから人々はこう考えてきた。最初に天上の空気「エーテル」を提唱したのは古代ギリシャの哲学者、アリストテレスである。科学の進歩とともに紆余曲折の議論を経た今、最新の宇宙物理学により宇宙を満たす“エネルギー”があることがわかってきた。宇宙を満たすエネルギーはどのように明らかになり、そして宇宙にどのような影響を与えているのだろうか。

宇宙を満たすもの


 cogito, ergo sum —我思う、ゆえに我あり—

 哲学史上最も有名なこの言葉を生み出したのは、17世紀の哲学者、デカルトである。

デカルト

近代哲学の祖、デカルト。
© Superstock/PPS

 何でも疑ってみよ。方法的懐疑と呼ばれるこの考え方を突き詰めると、ついには自分の存在さえも疑わざるを得なくなる。そんな中、いったい何を基準として信じることができるのか・・・

 デカルトはこの問いに対して、「疑っている自分がいることに疑いはない」、つまり「我思う、ゆえに我あり」と考え、これを基準に思考を進めた。この優れた業績により、デカルトは近代哲学の祖と呼ばれている。

 デカルトは哲学者であると同時に偉大な科学者でもあった。しかし科学へのアプローチの仕方は、哲学のそれとは異なっていた。デカルトは当時の他の科学者と同じ様に、宇宙に満ちていると考えられていた「エーテル」を用いて、惑星はエーテルの渦の中を運動していると説明した。デカルトはなぜ、当時その存在が確認されていなかったエーテルを用いて説明したのだろうか。

 科学は時に大胆な仮説を用意し、それを検証することで進歩していく。紀元前にすでに提唱されていたエーテルは、デカルトが生きた時代にあってもまだ反証されていなかった。エーテルが完全に否定されたのは20世紀に入ってからである。

 今また、科学者たちは「宇宙に満ちているもの」に夢中である。それを「ダークエネルギー」という。

 ダークエネルギーは今まさに検証され、その存在が確かなものになってきた。


「生涯最大の過ち」から最先端へ

 デカルトらが用いた「エーテル」の存在は、アルバート・アインシュタインによって完全に否定された。光はエーテルではなく真空中を伝播することが示されたのだ。しかし物理学者たちはエーテルとは別に宇宙を満たす存在について思いを馳せていった。

 宇宙の大きさは不変のはず。アインシュタインは直感からそう仮説を立てた。そして宇宙が自らの重力によってつぶれることなく形を保つためには、宇宙が重力にさからって外側に向かう力が必要だと考えた。こうして、アインシュタインは重力場方程式の最後に「宇宙項」と呼ばれるエネルギーを足したのだ。

 しかしその後、エドウィン・ハッブルの観測結果*1によって宇宙は膨張していることを知ったアインシュタインは、宇宙の大きさを不変と考えて宇宙項を足したことを「生涯最大の過ち」だと認めたという。当時、反証されたアインシュタインの仮説は皮肉なことに、今また注目を集めている。この宇宙項というエネルギーが実は、宇宙が生まれた間もないころに宇宙が大膨張するのに必要だった「真空のエネルギー」に相当し、さらには、現代の物理学者たちを興奮の渦に巻き込んでいる未知なるエネルギー(=ダークエネルギー)である可能性もでてきたのだ。

 宇宙には未知のエネルギーが満ちている。その確実な証拠をもたらしたのは、天文学者たちだった。

 天文学者は、宇宙の成り立ちを調べる上で、星が大爆発を起こし明るく輝く超新星に注目していた。連星のうち重い方の星が燃え尽きた後に残った星を白色矮星(わいせい)と呼ぶ。白色矮星が、周りからガスを取り込むことで太陽質量の1.4倍になると爆発を起こし、明るく輝く。これをIa型超新星と呼ぶ。Ia型超新星の明るさは、たったひとつで銀河1個ほどに相当し非常に明るい。

お互いの周りを回転する2つの星(連星)の片方が巨大化して爆発し、白色矮星が誕生。さらに白色矮星が周りのガスを取り込むことでIa型超新星爆発を起こす。

 さらに、Ia型超新星が一番明るくなる時の明るさは、ほぼ一定であることがわかった。この星は宇宙全体ではたくさんあることを考えると、私たちは宇宙の中に同じ明るさで輝くいくつもの星を手に入れたことになる。これは研究の上で、非常に大きな意味をもつことだった。私たちはこれまで5000万光年までの距離しか観測できなかったが、Ia型超新星の明るさを観測することで90億光年までの距離を観測できるようになったのである。そしてこの観測によって、宇宙の加速膨張とダークエネルギーの存在という思いもよらないことがわかったのだ。
*1
エドウィン・ハッブルの観測結果
「宇宙で一番古い光とは」参照

見えてきたダークエネルギーの証拠

ハワイ島にあるCFHT

多くの超新星を観測してきたハワイ島にあるCFHT(カナダ-フランス-ハワイ望遠鏡)。
© Jean-Charles Cuillandre

 宇宙はビッグバン以来どんどん膨張している。科学者がその事実に気づいて間もない頃は、その膨張の速度は重力によって鈍ることがあっても、速くなることはないと考えられてきた。ところが1998年、天文学者たちは超新星の観測によって、現在の宇宙の膨張速度がどんどん速くなっていることに気づいたのだ。加速膨張宇宙。この事実は関係者に衝撃を与えた。

 宇宙が一定の速度で膨張しているならば、光が引き伸ばされる割合(赤方偏移)と、超新星の明るさには一定の関係がある。しかし、宇宙が加速しながら膨張しているならば、光の引き伸ばされ具合を基準にしたとき、超新星の明るさは、一定の速度で膨張する宇宙よりも暗くなるはずである。そして実際に、50億光年を境に超新星の明るさは暗く見えているのだ。

超新星爆発の残骸

CFHTで観測された超新星爆発の残骸。超新星爆発のガスの中から新しい星が生まれる。赤い部分が超新星残骸のガス、青い星が新しく生まれた星。
© Canada-France-Hawaii Telescope / J.-C. Cuillandre / Coelum

 つまり宇宙は137億年の歴史のうち、50億年前から一定の割合で膨張する宇宙から、膨張の速度がどんどん大きくなる加速膨張の宇宙になっていた。

 いったい、何が宇宙の膨張を加速させているのだろうか。これを説明するには、宇宙に満ちたエネルギーについて考える必要がある。


革命前夜

宇宙の温度分布

WMAP衛星による宇宙の温度分布の観測から、私たちの宇宙は歪みがなくFlat(平坦)であることがわかった。
©WMAP


JELLY BEAN UNIVERSE

宇宙の中身を例えたジェリービーン。色がついているのが通常の物質。全体の約96%の正体は未だわかっていないダークエネルギー(約73%)とダークマター(約23%)だ。
© Fermilab Image

 宇宙の膨張を加速するものは、実は未だにその正体がまったくわかっていない「ダークエネルギー」である。その存在は超新星の観測のみならず、WMAP衛星による宇宙の温度分布観測からも指摘されている。

 WMAP衛星では宇宙の空間の歪みについても詳しい研究がすすんでいる。これによると、宇宙空間に歪みはなく“平坦”であり遠くのものがゆがんで見えることはない。そしてこれは宇宙の密度を現す値(Ω)がほぼ1であることを示している。Ωの内訳は、通常物質が約4%、ダークマターが約23%である。つまり正体のわからないダークエネルギーは約73%*2あるはずであり、宇宙を満たしている大部分はダークエネルギーということになる。

 超新星の観測による結果も、これらの条件と符合している。つまり現時点で、ダークエネルギーがあることは超新星とWMAPの別々の観測から明らかになっているのだ。

 しかしダークエネルギー自体がいったい何であるのか。科学者にとって、この研究は全く未知の領域になる。だからこそ、ナゾが解けるときを見逃すまいと注目が集まっている。

 「革命前夜」。現在のこの状況を、戸塚洋二東京大学特別栄誉教授はこう表現する。わからないことがたくさんあって、それぞれがだんだんにつながっていく。あと少しで自然の理解という大きな革命が起こるだろう。それは、一番大きなものを扱う宇宙物理のみならず、一番小さなものを扱う素粒子物理をも統合し、新しい宇宙像を描くに違いない。そのためにもデータを着実に蓄積し解析を進めていかなければならない。

 長く超新星を観測してきた土居守助教授(東京大学)は、観測結果を確信しながらも、より広い視野で次のように考えている。

 「観測結果をそのまま解釈すると大変不思議なエネルギーが存在していることになります。しかしこの結果はむしろ新しい物理法則への手掛りなのかもしれません。」

 既存の枠組みでダークエネルギーが実際に存在するのか、あるいはより新しい世界を理解する幕開けなのか。今がその見極め時なのだ。

*2
最新の論文では、通常物質が3.9%、ダークマターが24.6%、ダークエネルギーは75.3%という結果になっている。

取材協力/掲載

東京大学天文学教育研究センター 土居守助教授/2007年3月


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