
厚い雲の扉が開かれ、日の光がその隙間から地上へと射す。
まるで、天から届いた啓示のようにも感じられる瞬間。
その光景は「天使の階段」、「天使の梯子」などと呼ばれている。
それは、大気中に漂う細かな水滴が光を散乱させることによるもの。
雄大で深遠な、光学現象の“ドラマ”である。
ニコンはいつも、
「光」を見つめ続けています。
その光の美しさは、見た者の眼を奪います。スポットライトのように雲の中から地上へと射す光。それは“薄明光線”と呼ばれ、太陽が雲に隠れているときに雲の切れ間や端から光が漏れ、光線が放射状に天から降り注いでいるように見える現象です。主にヨーロッパでは“天使の階段”、“天使の梯子”とも呼ばれ、旧約聖書の一節に“ヤコブの梯子”として登場していることでも知られています。日本では“光芒(こうぼう)”と呼ばれ、俳句では“陽矢(ひや)”と表現されることもあります。“薄明光線”は地上に射すものだけではなく、雲から天上へと向かうもの、雲の中から四方八方に広がるものなどがあります。また、太陽のある位置と正反対の空に、地平線に向かって収束する光芒が現れる場合もあり、これが“反薄明光線”、“裏後光”というものです。
“薄明光線”はまた“レンブラント光線”とも呼ばれています。それは、17世紀のオランダを代表する画家“レンブラント・ファン・レイン”に由来するもの。レンブラントは、暗い背景を基調とする中で斜め上方向から射す強い光から生まれる明暗対比によって、人物をよりドラマチックに表現する手法を確立しました。代表的な作品として知られている“夜警(フランス・バニング・コック隊長の市警団)”では画面左上からこの光を描いています。“レンブラント光線”は、その後の美術史に多大な影響を与えたと言われています。さらにこの手法は、絵画の世界のみならず写真撮影のライティング技術にも応用されており、人物のポートレートなどを撮影する際、斜め上からの光によって、陰影をつける手法は“レンブラント・ライティング”と呼ばれ、人物撮影の基本的なライティングとされています。天から射す“薄明光線”。その光は人の心を捉える普遍的な美を照らし出すようです。
“薄明光線”が現れる条件は、まず太陽が雲に隠れていること、その雲にはある程度の厚みがあり太陽光線を遮りかつ切れ間や隙間があることです。そして次に雲の切れ間や隙間付近の空全体に、雲を形成する水滴(雲粒:約3μm~10μm)ぐらいかそれよりも小さい水滴が多数浮遊していること。この微小な水滴によって直進するはずの光(可視光)が散乱され、放射状の光の筋“薄明光線”として見えるのです。この光の散乱を“ミー散乱”と言います。“ミー散乱”は水滴などの粒子が数百nm~数μmと、可視光の波長(約400nm~800nm)に比較的近い場合に起こり、全ての波長の可視光を散乱するため白色に見えます。雲が白いのはこの“ミー散乱”によるものです。さらに水滴ではなく、空気分子など大きさが光の波長の1/10以下と遥かに小さい場合の散乱は“レイリー散乱”と呼ばれ、より波長の短い青の光が多く散乱されます。空が青く見えるのはこのためなのです。また、水滴の粒子が約0.1mm~数mmの雨粒程度まで大きくなると“幾何光学的進行”という現象が起こり、条件が整えば虹が現れます。青い空、白い雲、雲間からの光線、七色の虹・・・。光は実に様々な表情を見せてくれます。
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