宇宙と光 生命の源 太陽

 子供のころ、画用紙に絵をかくときには必ず右上に丸くて赤く、そしてのっぺりとした太陽を描いた。皆さんにも覚えがあると思う。ところが拡大してみると太陽の表面にはびっしりと細かい粒状の模様があることがわかった。5分から10分で現れたり消えたりするこの粒が、長く謎だった太陽の姿を明らかにしつつある。

太陽の芸術


岡本太郎作「太陽の塔」
1970年
写真提供:岡本太郎記念現代芸術振興財団

 遥か昔の古代から私たち人間は太陽を神として信仰してきた。日本では天照大神(あまてらすおおみかみ)である。そのあり方は国や地域によって様々であるが、太陽神は柔和というよりは激しく恐ろしい存在だったようだ。現在からは考えられないことであるが、古代メキシコでは太陽神に多くの人の命が生贄としてささげられた。

 日本の高度成長期に活躍した芸術家・岡本太郎は、古代メキシコ・アステカ人の太陽神への儀式を知り強く影響されたという。岡本が20代のころ、フランスのパリに留学していたときのことだ。少年のころから鮮烈な赤に魅せられていた岡本は、その後、血を連想させるような赤を使い、あるいは太陽をテーマにした作品を多く手掛けている。

 私は幼い時から、「赤」が好きだった。赤といっても派手な明るい、暢気(のんき)な赤ではなくて、血を思わせる激しい赤だ。(中略)自分の全身を赤にそめたいような衝動。この血の色こそ生命の情感であり、私の色だと感じつづけていた。(岡本太郎著『美の呪力』より)

 「芸術は『きれい』であってはならない」「芸術は爆発だ!」と言った岡本の作品には、人間の原点を見直すような作品が多くある。それも、太陽という人間の歴史を語る上で避けることができない存在のためであろう。

 太陽は地球の気候に影響を与えていることはもちろんであるが、太陽フレアと呼ばれる爆発により、放出された高エネルギー粒子に宇宙飛行士が被ばくする可能性があったり、電離層の状態に影響が出ることで無線通信が乱れたりなど、人の活動への影響も大きい。

 太陽の黒点はどのようにできるのか、太陽フレアはどのようにおきるのか、太陽をとり囲むコロナと呼ばれる希薄なプラズマはどうやってエネルギーを得ているのかなど、まだよくわかっていないことも多く、研究が活発に行われている。

太陽の黒い足跡

 皆さんは太陽の「黒点」を見たことがあるだろうか。黒点は名前の通り太陽のほくろのように黒い点として見える部分をさし、古代中国では「太陽には(黒い)カラスがすんでいる」ともいわれていた。漢字の「日」の中央の横線は、太陽の中の黒点を表すとも聞く。黒点を望遠鏡で最初に観測したのはガリレオ・ガリレイであったが、有史以来、多くの記録が残っていて、太陽の活動を知るのに役立っている。

 黒点は太陽の活動の活発さを示す指標になっている。現在は黒点が少なく太陽の活動は活発ではない、ということを聞いたことがある人も多いと思う。では黒点とは何だろうか。


太陽の黒点

 まず、黒く見える理由だが、これは黒点部の温度が周りよりも低いためだ。太陽表面はおよそ6000度という高温であるが、黒点部分はそれよりも温度が低く、4000度程度と考えられている。ではなぜ黒点部分だけ温度が低いのか。これを理解するには、太陽の中で何が起きているのかを知る必要がある。

 太陽の中心では莫大なエネルギーが生み出されている。太陽はたまねぎのようにいくつかの層からなっている。中心で生み出されたエネルギーは、その外側にある放射層と呼ばれるところを通り、対流層と呼ばれる表面の層に到達する。2006年、この太陽表面をとらえた高解像度の映像が、衛星「ひので」から届いた。黒点周りの様子が非常に面白いのでよく見てほしい(動画)。黒点の周りの粒がびっしりとならんでいる表面(粒状斑)は、下から届く熱によって、ぐつぐつと煮え立っている。それに対して、黒点部分はそうした様子がない。これは、黒点から強い磁力線が出ており、黒点の外と同じような対流が起きないからだ。そのため黒点では周囲と比較して温度が上がらない。


太陽観測衛星「ひので」でとらえられた黒点周りの映像。黒点から流れる磁力線によって、外向きと内向きに物質が流動している様子がわかる。周りの粒は粒状斑と呼ばれ、ぐつぐつと煮え立っている様子がわかる。


粒状斑。白いところは内部から浮き上がっている部分。黒い部分は下に沈み込んでいく部分。


近接するふたつの太陽黒点は巨大な磁石になっており、磁力線が太陽表面から上空に向かって伸びている。磁力線に従ってプラズマが光っているのが見える。

 黒点は可視光でみると暗く見える。しかしX線でみると一番輝いているのは黒点の上空にあるコロナなので太陽のX線写真では、黒点部分が上空のコロナによって明るくはっきりと確認できる。


太陽のX線写真

  • 画像提供:国立天文台/JAXA

太陽をうめつくす小さな磁場

 東京大学の大学院生、石川遼子の研究テーマは太陽表面から上空に垂直に伸びる磁力線の束(垂直磁場)の研究だった。京都大学3年生のとき、太陽の映像を見せてもらったのが研究テーマを選ぶきっかけになった。太陽はまだわかっていないことだらけ。身近な星だけに強く興味をもった。

 黒点周りは太陽表面に対して垂直方向の磁場があることは知られていた。ところが、2007年に衛星「ひので」から送られてきた画像は、太陽表面のいたるところに、これまで見つかっていなかった小さな水平方向の磁場(水平磁場)がびっしりとあることを示していた。

 この小さな水平磁場の寿命は、太陽表面にわきたっている粒が5分から10分で生まれたり消えたりするのに連動していた。つまりこの磁場は、ぐつぐつと煮え立つ物質の流動に伴って太陽表面に出てきているものであることがわかった。


粒状斑の黄色部分が水平磁場の強い領域。

 2007年に初めて発見された、寿命が短く、長さも短い太陽表面の水平磁場。その磁場のメカニズムはもちろんまだ誰も解明していない。この研究の一線に立つ石川はふたつの可能性を考えている。ひとつは黒点から発生している磁場がもととなり水平磁場になる可能性。もうひとつは表面で物質が対流するときに磁場が発生し、その一部が表面に無数に顔を出している可能性。いまは各方面から考えて、後者が魅力的だ。

 なぜなら、黒点周りと黒点から離れた場所での水平磁場の発生頻度が同じくらいであるからだ。水平磁場の解明は太陽にまつわる「長年の大きな謎」をとくきっかけになるかもしれない。この大きな謎について次に紹介しよう。


太陽表面に浮き出す無数の磁場。

  • 画像提供:国立天文台/JAXA

火元よりも上が熱い理由

 太陽の表面は6000度であるのに、表面よりも上空の彩層と呼ばれる層は1万度、さらにそれよりも上空のコロナと呼ばれる層は100万度にも達する。単純に考えれば、ガスコンロに載せたお鍋の底よりも、火からずっと離れたふたの方が熱くなるという不思議な現象である。太陽の研究者にとって大きな謎だった。

 今回の水平磁場の発見がなぜこの問題を解決することにつながるのか。上空のコロナが100万度に到達するために必要なエネルギーを計算すると、ちょうど水平磁場が太陽全体をうめつくした場合に出るエネルギー量に相当することによって説明がつく。ひとつひとつの磁場は小さいが、太陽の表面すべてをこの磁場がうめつくしているため、そこから生み出されるエネルギーは莫大だ。「もしかしたら、このエネルギーがコロナを加熱するエネルギー源になっているかもしれない」と石川は考えている。

 これほど身近な太陽であり昔から知られている黒点であっても、そのメカニズムはまだまだ発見途上。新しい太陽像の発見は私たちにどのような影響をあたえるのだろうか。

  • 画像提供:国立天文台/JAXA

取材協力/掲載

石川遼子 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻 博士課程/2010年4月